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ブランド・エクイティのソースが変化することによって増すマーケティング活動の重要性

1 minute read | ニールセン デジタル シニアアナリスト コヴァリョヴァ・ソフィヤ | September 2021

新型コロナウイルスの感染拡大が長期化し、ビジネスの先行き不透明感が高まる中、短期的な売上目標達成のためにコンバージョン目的のマーケティング戦略にシフトするマーケティング担当者も多いのではないでしょうか。しかし、ブランド認知を高めることはかつてないほど重要になっており、このようなアッパーファネルの指標を向上させるためのマーケティング活動の重要性は高まってきています。ニールセンの調査によると、認知や検討などのブランド指標が 1 ポイント上昇することで、売上が 1%増加することが分かっています。つまり、ブランド・エクイティを構築することや認知向上などのためのブランディングキャンペーンは、長期的な目標達成に不可欠であるとともに短期的な成果にも貢献することがわかっています。

ブランドが持つ資産価値であるブランド・エクイティには様々な要素が含まれます。例えば、店舗の棚におかれた商品やロゴ、看板を見るなど、プロモーション以外のブランド・エクイティのソースも重要な役割を果たしています。しかし、新型コロナウイルスの影響で消費者の在宅時間が増加するとともに、オンラインメディアを消費する時間が増え、従来は実店舗で行われていたようなブランド体験もデジタル化してきています。このような消費者の行動の変化はブランド・エクイティのソースにも変化をもたらしています。変化したブランド・エクイティのソースに合わせたマーケティング活動を行っていくことが、ブランドの健全性を維持するために重要になってきています。今回のメルマガでは、その2つの理由について見ていきたいと思います。

1.オフラインでのブランド認知機会の減少

ブランド・エクイティは店頭の棚にある商品を見て認知することはもちろん、ブランドロゴを見たときにポジティブな体験を思い起こすことや、カスタマーサポートとの関わりなど、ブランドに対するすべての経験とともに蓄積されます。このようなブランドとの接点は、これまで実店舗での体験などオフラインでの機会も多くありましたが、消費者行動のデジタル化が進んでいることから、実店舗に足を運ぶ機会が減り、オフラインでブランドに触れる機会は減少しています。 特に、実店舗での購入が多くの割合を占める商品カテゴリーの場合、店舗での買い物時間が減ることで、その分商品やブランドロゴに触れる機会が減少することになります。多くのブランドの商品の中から一つ選択することを迫られているような状況で、消費者は無意識のうちに安心感を求めることが多く、見聞きしたことのないブランドよりも慣れ親しんだブランドを選ぶ傾向があります。 そのためブランドにとっては、このように実店舗で消費者と接する機会が減少することにより、リテンションレートが低下する可能性も考えられます。

日本では、日用品の多くが実店舗で購入されていますが、コロナ禍において直近1年間のオンラインショッピングの利用は大幅に増加しました。ニールセン デジタル・コンシューマー・データベース2020によると、多くの商品カテゴリーにおいて、2020年4月以降、初めてオンラインで商品を購入した、または購入頻度が増えたと答えた人が20%前後となっているのに対し、日用品の割合は特に高く、28%となっていました。多くの消費者がオンラインでの購入にシフトすることで、実店舗でブランドが消費者と接する機会が減少し、その分、ブランド認知に影響を与えている可能性があります。また、オンラインで新しいブランドと接するようになると、それまで定期的に購入していたブランドを買わなくなる可能性もあります。米国の消費財(CPG)市場の場合、Nielsen Commspointによると、実店舗で「過去に購入し たことのないブランド」を購入する割合はわずか4.3%だったのに対して、オンラインでは、12.1%と約3倍になっていました。オフライン、オンラインともに売上を維持するためには、マーケティング活動を通じてブランド・エクイティを維持することが重要になります。

2.オンラインでのブランド認知機会の減少

オンラインでの購入が増えるということは、今までは店舗で購入されていた商品がそのままオンラインで購入されていると考える方も多いのではないでしょうか。しかし、オンラインショッピングの利用増加は、単に商品が購入される場所が変化しているだけではありません。実際に実店舗で購入される商品とは異なるラインアップが、オンラインショップの上位ランキングに並ぶことも少なくありません。オンラインでは「棚」の数が無限にあるため、一つのブランドを目立たせることはますます難しくなっています。

また、コロナ禍の影響により、オンラインでの商品購入検討も増加傾向にあります。感染することを恐れるという心理的影響を受けて、なるべく店舗での滞在時間を減らすためにも、多くの消費者が事前にオンラインで商品の購入を検討した上で実店舗での買い物に向かうケースも増えていることが想定されます。消費者は、店舗で実際に手にとって商品の使用感を確認する代わりに、無数にあるオンライン上の情報のなかから、自分に必要な情報を探し出し、購入の意思決定を既にしていることが考えられます。ニールセン デジタル・コンシューマー・データベース2020によると、例えば電化製品の場合、店舗で購入した人のうち44%はオンラインで購入検討をしており、昨年と比べても8ポイント増加していました。オンラインかオフラインかという購入経路に関係なく、デジタル上での情報の重要性が増している、ということが言えます。つまり、オンラインでのブランド認知獲得こそが、売上獲得への近道になります。

このような消費者の行動の変化によって従来のブランド・エクイティのソースが失われ、長期・短期的な売上に影響を与えることは間違いありません。ブランド・エクイティの喪失は、四半期ごとに2%の長期利益の減少を引き起こす可能性があることが示されています。一部の消費者行動は新型コロナウイルスの流行以前の状況に戻る可能性がありますが、多くは新しいトレンドとして定着することが考えられます。 結果、従来のブランド認知経路は変化していくことになるでしょう。こうしたプロモーション以外のブランド・エクイティのソースを当たり前のものとしてきたブランドにとって、ブランド認知を維持することは次第に困難となり、マーケティング活動に積極的な競合他社と比べて遅れをとっていく可能性があります。

コンバージョン目的のマーケティングは、特に予算が少なく、目の前の目標としているROIを達成する必要のあるブランドにとっては魅力的に映るかもしれません。しかし、長期の目標を到達する上で、アッパーファネルマーケティングの重要性は増しています。 ブランド構築にかける費用が少なすぎると、新規の消費者獲得が進まず、購買や来店などの行動を促すアクティベーションマーケティングの効果が十分に発揮できなくなることでしょう。ブランドにとって上位ファネルと下位ファネル、それぞれのためのマーケティング施策をバランス良く実施していくことが、長期目標を達成する上での成功の鍵となるでしょう。

本コラムに関連する「ブランドレゾナンスレポート「ブランドの舵取り」はこちらからダウンロードできます。

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